山中で花を見つけたから摘んでみた。赤いのと、白いのと、黄色いのと。そうたくさんじゃないけどはい、と束にして差し出すと元親は「んん?」と眉を寄せた。ぐっと曲がった唇のとこが男らしい。 「なんだよ」 「おみやげ」 「…………」 元親の銀みたいな白みたいな髪が今は夕日を受けて橙だ。獣道にちょこんと生えていたちっさな花たちよりかよっぽどきれいなものみたいだなあと佐助は思って、もう一度はい、と言った。突き出した腕は突き出したままで。元親は佐助の顔と手のなかの花とを見比べて、それから橙の頭をがりっとやって、そんでもってちょっとため息を吐いた。佐助は元親にため息を吐かれるのがなかなかどうして嫌いじゃない。特にこの、しょうがねえなあと言うみたいなのは。甘やかされたいと思う相手に甘やかされるのはまったく気分がいい。言ったらいい加減殴られるかなあと思うので言わないけど。 元親は赤いのと白いのと黄色いのとを一本ずつ佐助の手に残して花を受けとった。ありがとよ、とため息と同じ(やさしい)温度の声で言って、そうして元親のおっきな手にはかわいらしすぎるそれらをぱっと放り投げた。もっともっと大きくて広い、元親の愛する愛する海に。 ぱっと。 赤と白と黄が散って。 ……ざざーん、と波が寄せて帰ってさらってく。海はどこまでもどこまでも赤い。青い海ってどんなだっけ、と佐助はちらりと考えて、結局思い出せなくてすぐにとなりの男を仰いだ。仰がれた方は片目で受けて、 「明日見てきゃいいだろ」 簡単なことのように言う。 佐助は手のなかに残された花をいじくったりしていて、花弁を指先でちょいちょいやったりしてみて、してみていたら花弁が一枚はらりと落ちてあわてたりした。あーせっかく摘んできたのに。…… ぱちゃんと小さな波が足先を洗う。 「何してんだよ」 「明日、ね」 「あるだろ」 「あるけど」 「なんだよ」 「何でもないよ」 しゃがみこんだら垂れた指先を波にくすぐられた。堪えるのをやめてため息を吐いたら力も抜けて、赤いのと白いのと黄色いのとが一本ずつ、合計してもたった三本のちっぽけな花が佐助の手からするりとさらわれていった。 「俺様もう駄目かも……」 弱音を吐いてみたら何言ってんだとあきれた声と大きな手が俯けた頭に降ってきた。元親はやさしい男だ。 俺様泣けちゃう。 佐助は嘘つきだ。
波の花にこころ、委ねて
お題:亡厭 20100224 |