ふと佐助は男の首に指を伸ばしてみた。目に映るよりは温かでしっかりと太く、片手ではとうてい掴まえられそうにない。左手にも追わえさせると男がわずかに身動ぎしたので佐助は自分の氷のような指先を思い出した。けれど男は一瞬肩を揺らしたばかりであとはそのひとつきりの目に愉快そうな色を湛えて佐助を見ているだけなので、佐助は指はそのままで詫びを込めてまぶたに唇を落としてやった。すると必然的に男の視線が途切れる。
 指がふるえた。
「あっちに行ったら俺様が案内してやるよ」
「Huh?」
「あんたが次はちゃんと鳥になれるように」
 吐息のかかろうかという距離で開かれた瞳もやはり笑ったままだ。年中張っている薄く強固な氷の膜はうちらっかわに鳶の翼を抱いて溶けやしない。佐助は冷えきった指を脈打つ熱に押し付ける。温めようと。……熱が移る。男から自分に。夢の橋の向こうのように遠くから。こんなに簡単に奪えたらいいのに。
「ちゃんと送ったげる。だからはやいとこ殺されてよ」
「はっ」
 言ってまた唇を落とす。今度は歪められた唇に。男が笑い飛ばそうとした空気がぬるく肌を引っ掻いた。羽毛にくるんだ刃の切っ先みたいに質が悪い。
 怯えているわけでは決してない。







わたし、あなたの鳥になりたい
お題:lis
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