それじゃあ、と言って玄関を出ていく二人をおうまたなと見送って、部屋の内に戻ると死体が起き上がっていた。さっきまでは確かに酔い潰れて転がっていたはずなのに、とっととビールの缶やつまみの残り空き袋なんかがとっちらかったテーブルの上や下を片し始めている。しっかりと開いた目玉がこちらを向いた。 「ねえごみ箱どこやったの? なくなってるんだけど」 「あ? あーなんかどっか蹴ったとかなんか言ってたけどな」 眉が歪む。それから唇も。 「なにそれ」 「俺じゃねえよ。つーかおまえ、大丈夫か」 ひょいと肩をすくめて掃除を再開する。ご覧の通り、というポーズだろう、多分。とりあえずそのどこやらへ蹴ったくられたごみ箱を探しながら、泥酔していたとは思えない機敏さで動く男を横目で見やる。頬なんかは少しばかし赤いが、そもそもあれくらいで潰れるわけはないのだ。いままでそんなのは見たことがない。 「まあ、また集まろうっつってたぜ。近いうち」 「……あー、そう。うん」 「なんだ、やなのかよ」 「やじゃないよ」 やだったらいいのに。 また肩をすくめて、それからとっぷり夜に濡れたとうめいな声音で呟いた。がしゃりと空き缶をビニール袋に突っ込む音。紛れたのはもちろん酔っ払いの戯れ言だ。 「俺はもうあのひとのものじゃないんだ」 目があかい。
また会えると言って笑うより、最後と言ってキスして欲しい
お題:貴方の唇 |