泣けないんだ、と今にも泣き出しそうな顔をして馴染みの忍びが言うので、元親は先日南蛮から仕入れたばかりのからくりをつついていた手を一瞬止めて「そうか」と頷いた。森の色を纏った(があいにくここは森ではない……)忍びは歪めた目元に手をやって、出ないのだという涙を押さえるような仕草を見せる。そうして、泣けないんだ、ともう一度。 「なんでかわかんない。でも泣けないんだよ」 「そうか」 「こんなに悲しいのに。苦しいのに。辛いのに」 「ああ」 「泣きたい。しんどい。もうやだ」 「そうかよ」 「つかれた」 忍びは本当にくったりとしおれきった声音を落として、それで何かそのからだを支えていたものまで吐き出してしまったかのようにその場にべたりと腰を落とした。それがいかにもちからなく鈍い重たげな様子で、元親は少しばかり心配になった。忍びといったら身軽さが売りだろうに。 元親は一瞬止めてまた再開していた手をまた止めて、すんすんと空しく(しつこく)鼻を鳴らしてみせるそれに手を……やりかけて、やっぱり止めて自分の首の後ろを撫でた。 「チカちゃん」 「何だよ」 「俺さまが今泣き出したらどうする」 「慰めんだろ」 手甲をつけたままで顔を覆ってうめく忍びに半ば背を向けて、元親はまたまたからくりをいじり始めた。元親は大きいからくりが好きだが大きいからくりは結局小さいからくりからできているので小さいからくりも好きだ。 ぼすん、と肩と背の間くらいのところに何かがぶつかってきた。温かくてやわらかたくて首筋がちょっとこそばゆい。 「じゃあ慰めてよ」 「慰めてんだろ」
あなたに拭ってもらうための言葉
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