いつの間にか直射日光が辛い季節だ。一進一退を繰り返す面倒な梅雨の合間、今日の空は数日ぶりにからりと晴れていて、昨日までの雨をすっかり忘れたような顔をしている。が、足許にはまだ小さな水溜まりがちらほら残って空気もどこか雨くさい。一応の街路樹が気休め程度の日陰を落とす歩道を香介は歩き、その前を二つの頭が(斜めに)並んで進む。ちょっとした奇跡みたいな色合いの、流れるときにはさらさらと音楽でも奏でそうな銀髪は香水の目線にきっちり乗っかっているのだがその隣には何もない。いや、これから進む道とか空とか雲とか、クリーム色の壁にねずみ色の屋根の家とか、あと見えてはいないが空気とかが見えている。……そこからすこおし低くなったところにある頭は、何が楽しいのかいや楽しいからなのかどうか、ふらふらゆらゆら振れたり揺れたりしていた。両サイドの髪も合わせてふらゆら。香介はそれを鼻先に引っかけたレンズ越しに見ていた。
「リオ」
「え? ……」
 休みのあとで必要以上にはりきっている太陽を映して、道に残る水溜まりはきらきらしい。それほどたくさんでなくても、ちょっと意識すれば目に飛び込んでくる。
「わわ、ありがとアイズくん!」
「気を付けろ」
「何やってんだよ? ぶつかるぞ」
 ふいにアイズが隣を行く理緒の腕をとって足を止め、そこでくいと背後に引き戻されるようにして止まった理緒の足の先には極小の湖面がきらり。もちろん香介も立ち止まって、ちょっと危ないところだったから呆れたのと咎めるのの合の子みたいな声を出したら不注意な後ろ頭が振り向いた。ちっさい。
「ごめんごめん。ちょっとよそ見してた……」
「よそ見?」
「何を見ていたんだ?」
「はう〜」
 くるりとした大きな瞳とか。小さくてふくりとした唇とか、顔面に乗ったパーツの一つひとつはきちんと整っているし、纏まってもやっぱり整っている。のに。なあ。
 理緒はなぜだか実際より短く丸っこく見えがちな指でよそ見の対象を示した。アイズと香介の目がその指を辿る。見かけより遥かに器用な(ということを、少なくとも香介たちは確かに知っている)指を辿った先には。
「神社? か?」
「な?」
 声を継いで小首を傾げられても知るわけはない。住宅が並ぶ通りから少し引っ込んで、緑がささやかに集まった間には確かにらしき雰囲気があるようにも思えるが。あかい何かも見える。幾つか。
「提灯?」
「ああ……」
「お祭り?」
「かもな」
 そういえばそんな季節かもしれない。立ち止まって、なんとなく、また歩き出すタイミングだけが掴めないままに三人の間を通り抜けて行った。代わりにぬるい沈黙が置き去りにされる(ああ……)。
 あおい銀髪がさらさら鳴った。夏を呼ぶ日差しの下で、みどりの影はひっそりと深い。







あてもなくあすもなく
お題:たかい
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