少し、ちからを入れてつまめば折れそうな指だ。
 ぽきんと軽い音を立てて、そこらに転がる小枝のように容易く折れそうなそんな指が、まずは魚の口をつまむ。そこからえらを越えて胸、腹、尾へと進んでいくのを恋次は黙って見守った。黒目のない目玉と真剣な顔で向き合う、ときどきすみれ色に薄まる大きな瞳はまるで猫のようで、獲物はといえば魚であるし、これはなかなかはまった絵面だ。
 中身をはみ出させないように丁寧に慎重に動いていた指がとうとう尾まで辿り着いて、魚は横一文字に二つになった。ほとんど等分と言っていいそれぞれをルキアは恋次に掲げてみせる。きらりと光った瞳が挑戦的だ。
「さあ、どちらにする?」
 恋次は迷わなかった。
「こっち」
「む!」
 『ほとんど』等分の、しかしそのほんのわずかだけ大きいほうを迷わず差した恋次に、ルキアは瞬時に眉根を寄せた。そのままいかにも悔しげな表情で魚の半身を差し出す。受け取ったそれはまだほかほかと温かかった。
「やっぱうめえなあ」
「うむ」
 大きな一口目を飲み下してから恋次が言うと、ルキアはやはりその折れそうな指についたあんこを、やはり猫のようにぺろりと舐めとって頷いた。







お腹のなかでひとつになろうよ
お題:hug
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