すっかり履き慣らされて汚されて、そろそろ潰れてきているスニーカー(と言うらしい)の先で目についた道ばたの小石を蹴って、小石が転がっていって、追いついてまた蹴って、というたわいない遊びをしながらずっと歩いていたら、ふと気づいたときには思っていたよりかずいぶんと遠くまで来ていたらしかった。左手には川と川縁、右手には家と塀が続いているだけの通りを延々やって来て、まだしばらくは伸びている道の途中で、立ち止まってしまえば目的地はない。長く連れ立ってきた小石が、蹴り出した靴先からとうとうそれて見えなくなったのが今だ。
 前方に振った足を持ち上げたまま左足一本で突っ立つルキアの影が、よく見るとぶつぶつとした路面の凹凸に細く長く伸びていて、となりに並んでもう一つ、もっと長いのが這っている。ツンツンと尖った髪の先まできちんとうつっている。
「なあ一護」
「ん」
 ルキアは振り上げていた足を下ろして、両足でぺったりとアスファルト(と言うらしい)に立った。一護は片側に重心をよせた格好で、片方のひざが曲がったその影は骸骨のようだった。なかなか滑稽で愛嬌がある。
「この道をずっと行くとどこに行くのだ?」
「ずっと?」
「そう、ずーっとだ。ずーっと」
 ちゃんと立たぬか、と言いたくもあるところは堪えてやって問うと、だというのに一護はさあなと気のない調子で答えた。それからルキアの足下に目をやって(だろう。この位置関係ではルキアには一護の目線は知れないが)、おいと今度はやや意思の戻ってきた声で言う。
「紐ほどけてんぞ。危ねえじゃねえか」
「む」
 指摘され、ルキアははじめて気づいて靴紐に指を伸ばした。屈み込む体勢になったルキアの横から、一護はポケットに手を突っ込んだままひょいと一歩踏み出した。続けてひょいひょいと歩き始める。
 ルキアはまだ動けない。
 一護の足はいつもにまして大きな歩幅をかせいで、ルキアがえいやこやつめと靴紐と格闘している間に細長い影を連れて先に行く。
「ばあか」
「一護?」
「ずーっと先はずーっと先だろ」
 簡単なことだ、と一護は言おうとしたようだった。そう思わせたいらしかった。
「そうか」
 歪な蝶々をどうにか靴にとまらせて、ルキアは立ち上がる。蝶々が羽ばたいて去ってしまうまで、ずーっと遠くまで行きたい。







かえれないふたり
お題:馬鹿
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