陛下、と、枢木スザクはある観点からすれば物憂げに伏せていた目を上げて、澱む湖沼の色でかつての友に応えた。かつての友で、そして現在はその身の主たる者に。そうすることを求められたからだ。
 求めた側、スザクに唯一の騎士の位を与えた年若い皇帝は薄く笑んでいた。血とともに受け継がれた二つの紫水晶は涼やかに澄んで、いっそ清いほどだ。スザク、と、重ねて呼ばう口許はやはり笑みを形作っていて、そこにも今なお流れ続ける血脈を感じさせた。
「何だい?」
 直立したままのスザクの姿勢はほとんど動かず、以前からは対照的な暗色の衣装の裾も静かに佇んでいる。玉座に座したルルーシュは、わずかな手振りでスザクに屈むよう促した。緑の双眸に一瞬舞い上がった堆積物を、速やかに沈め直して騎士は従う。
「いや」
 やわらかな声だった。
 続いて掲げられた腕も、頬に触れた指も、三度目になる名前も、野の花がほころぶ瞬間を教えるようなやわらかさでできていた。まるで慈愛のそれだった。
 ルルーシュの、ある種深窓の姫君めいたたおやかな手指が触れる寸前、確かにおののいたスザクがどう受けとめたのかは知れないが。もしくは受けとめなどしなかったかもしれない、かつての親友の震えをルルーシュがどう思ったのかも。
 すべては彼女がひとり感じるばかりだ。
 もはやすっかり傍観者となったC.C.は、彼女からすれば赤子のように幼い、世界を手にした二人の哀れな少年を見ていた。
 あとはただ彼女だけが見届ける。







清らかな背徳か、或いは傲慢な空論か
お題:牧童
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