冬にも太陽がよく照って気持ちのいい午後があるように、息苦しく喉を凝らせる理由と目的をそれぞれがそれぞれに抱えた彼らの旅にものんびりのどかであくびの出るときというのが、確かに結構なこと存在して、そしてそれはつまりいまこのようなときだった。まったくうそのように平和なひととき。クラウドは成り行きながら任された旅のリーダーとして、そしてまた英雄と呼ばれた男を追う個人的な理由を持つ身としても、こんな雲の動きさえ停滞した真昼には焦りを感じないではなかったが、どくどく毎秒ごとに送り出される復讐心で濁った血潮にも、それでもやはり休息も必要だと言い聞かせて頷くことにも、最近ではまた随分と慣れてきていた。
 クラウドにそういうふうに思わせるようになった要素の大分多いいくらかは、することがなくて空の手を持て余す彼のとなりで、昼食を取ったばかりなのにもう横になっている。穏やかな呼吸が聞こえる。すうすう、そのゆったりと寛いだからだを見ていたら、うしになるぞ、と、ほとんど無意識に口から言葉が転がり出た。
 ぱちっとみどりの目が開く。
 途端大きな二つのそれがきらっとこちらを向いて、クラウドは面食らった。なんだ、という一言が出ないで舌の根の裏で丸まった。エアリスの瞳はたまに透き通り過ぎて底がないみたいだ。眠っているのかと思っていたのに、まどろむことなんて知らないように澄んでいる。
「…………」
「…………」
 言葉の出ないクラウドを寝っ転がったまんま見上げて、エアリスはにっこりした。
「…………」
「……もー」
「…………」
 クラウドは、まだ、言葉が出ない。
「もう!」
 横倒しのからだの上側になっていたエアリスの左手が素早く動いて、クラウドの腕をぺしりとやった。同時にほんの一瞬眉を吊り上げてみせて、それからまた、あっさりとほほえんでみせる。もう、しょうがないからゆるしてあげる。そんなふうに、ちょうどいい日向に降りた小鳥のように満足そうな様子のエアリスに、クラウドもどうしてか(どうしても)笑い返した。身勝手な彼女に、不器用な自分を、近頃の彼はときどき忘れてしまう。
「……解けてるぞ」
 寝乱れた彼女の後ろ髪に指をやると、ピンク色の布地の下からころりと白いものがこぼれた。使えない、と彼女が言ったおまもり。ぼんやり淡く照るそのかたまりは、目には温かげなのに触れた手のひらにはひやりとして、まるで冬の太陽に似ている。
 完璧な球形で、それだけの重みを持っていて、濁りも曇りも透けてもいない。その中心にあるものを誰も知らない。彼も彼女も。
 細っこい腕がぐるっとクラウドの腰に回って、思いの外の強さで、ぎゅうと彼を締め付けた。
「おい」
「もー」
 てんでわざとらしい鳴き声のあとに、おなかの横で堪えられないみたいな笑い声がした。クラウドはこの女どうしてくれよう、と眉間にしわを作って思案したが、しかし結局はすっかりまいってしまっているのだから降参するっきゃないのだ。どうにも眉間に力が入らない。豊かな髪を一房とって口づけた。







リボンの隙間
お題:まいなすのひかり
20110326
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