その子供の手足ときたらひどくほっそりとしていて、衣服の裾から覗いた肌のその内を通る骨のかたちが見えるようだった。色の白い皮膚が全身をきっちりと被って、スラムの住人らしからぬ滑らかなその下にはしゃんとした骨とヒトならぬ血がけれど等しく生きている。
 やわい春の色をしたワンピースには袖がなく、少しだけまろみをおび始めた肩とひざこぞうは当たり前の少女のような顔をしていた。さらさらの土を降りかけたような茶色い髪は今日もリボンでまとめられてその背骨を隠している(さてそれは何者からか)。
 ツォンの落とした影に、子供は少しの間を置いてから顔を上げた。しゃがみ込んだままでツォンを仰ぎ見る。
「……また来たの」
「機嫌が悪いな」
 ぎゅっと寄せられた眉の下で、みずみずしい緑をあえてぼかしたような瞳がとんがっている。ピンク色の唇がきゅっと曲がったかたちから忌々しそうに開いた。
「あなたのせいで逃げちゃったじゃない」
「何が」
「教えない」
 言って、子供はツォンと視線を合わすのをやめて先ほどまで見ていた植え込みを向いた。子供の家には広く明るい庭があって、その一部だ。こんもりとした緑にところどころ薄桃の花がついている。「逃げちゃった」ものをなぐさめるような仕草で、少女特有のやわらかさよりその内の骨を意識させる指が葉を撫でた。丁寧に、親しみを込めて。
 鳥か、猫か。
「友達か?」
「あなたに関係ないわ」
「神羅に来ればいくらでも遊べる」
「結構よ」
 つんと大人めいて、けれどだからこそまだまだ幼い声がぴしりと拒絶の言葉を吐く。ツォンは薄い爪の乗った指の動きを目で辿って、それが葉を撫でるのをやめてひざに戻ってくるまでをただ観察していた。はっとするほど繊細な造りの、けれどヒトと変わらないかたち。
「上でならもっと珍しい花も入ってくるぞ」
 子供はゆっくりと立ち上がった。軽く指先を擦り合わせて、とんがるのをやめた瞳でまっすぐにツォンを見る。さっきよりずっとつよい色をしている。これを「古代種らしい」と言うのかもしれない、と、ツォンは少しだけ考えた。
「あなた、そんなにここがきらいなの?」
「……どうして」
「いつもしんどそうな顔してるんだもの」
 気付いてないの?
 瞬きをして、子供はなんだか透明な色で微笑んだ。痛ましいものにするように。
「わたし、あなたのこと助けてあげられないよ」
 ひどくやわらかい、春の日から色だけを取り払ったような声音だった。耳にそうっとかたちを合わせてすべり落ちる。
 ……ツォンは小さく息を吐いた。
「そうか」
「うん」
「それでも、我々は君を必要としているんだ」
 子供はちょっと眉を上げて、今度は単純におかしそうに笑ってみせた。くすりと、冗談でも聞いたかのように。
 おかしなはなしね。
「わたしはあなたたちがいなくなればいいって思ってるのに」







空気が落ちてくるそうして僕を動けなくする
お題:30さん
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