世界中で過不足なく正しくひとりきりであるということは、思うよりかはやさしいことだ。この星をどの方向に一巡りしても同じ存在は見つからない。そんなまるきりの孤独に鼻先を突っ込んで、レッド]Vはうとうとと昼下がりの陽気にまどろんでいた。ぼうぼうと丘の上に広がる草っぱらに伏せて、大地とか花とか草とかのにおいに埋もれる。たいそう気分がいいのはそういうやわらかい陽射しとかいいにおいのためでもあるし、それだけでなくて、レッド]V自慢のぴんとした耳を撫でるとびきりやさしい手があるからだ。
 ……エアリス。
 小さく呼びかけると(半分くらい胸の内で、半分くらい寝言みたいになったけど)草の先をちょっとまるくしたみたいなみどりの瞳が下りてきた。
 なあに?
 エアリスの瞳はみどり色だなあ、とレッド]Vは思ってまたいい気持ちになる。
 気持ちいいねえ。
 気持ちいいねえ。
言えば笑ってくれるから、レッド]Vは鼻の先を漂うこうふくを吸い込んでまぶたを下ろした。たっぷりとした気分。まぶたの裏がやわらかい。
 レッド]Vの種族というのは(レッド]Vの知る限りにおいてではあるけれど)この星でレッド]Vきりだ。両親はいたけれど今はいなくて、でも今もずっといっしょにいる。たてがみに刺したコームを思ってレッド]Vはすんと鼻を鳴らした。さみしくて誇らしい。両親はいないけれど家族はいて、仲間もいて、だからレッド]Vはさみしくてもだいじょうぶだ。想って鼻が痛くなることもあるけどでも(そういうのは夜によくやってくる。星がきれいな)。
 だいじょうぶだよ。
 言うみたいにやさしい手がレッド]Vの耳や頭を撫でる。小さな子どもにするように。レッド]Vはそうされるのが嫌いではなくて、思えばエアリスの手ははじめから(レッド]Vがまだ背伸びをしていた頃から)こんなふうにやさしくて、レッド]Vは少し決まりが悪かった。だってあんまりやさしくてここちいい。
 ……ねえ。
 ほわほわした毛をくぐって、声はレッド]Vの敏い耳にもやっぱりやさしい。立てた耳には風とか草とか虫の音までが集まってくる。でも星の声は聴こえないからレッド]Vはエアリスの耳の形を思い出そうとして、けどできなくて、確かめようにもすっかりまぶたが重たかった。続く声もほとんど接着剤みたいな響きで。ひとりごとだったのかもしれない。たぶん、ここにいるのがクラウドだったら、エアリスは何にも言わなかった。
 どこ、行くのかな。
 ……誰が?
 誰、かな。
 へんなの。
 そうね。
 エアリスの耳はきっと風とか草とか虫の音までは拾えない。レッド]Vは知りようもないけど、クラウドやティファやバレットたちとおんなじように。だからエアリスはレッド]Vより、ほんの少し、孤独なのかもしれない。
 ……レッド]V。
 もし、いま仲間(クラウドたちとは違う意味での)が現れたら、レッド]Vは駆け寄るだろうか。たてがみや燃える尾を追いかけあったり、できたらすごくたのしいだろうなあと思うけど。
 なあに?
 エアリスはくったり上半身を折り曲げて(からだやわらかい)レッド]Vにかぶさってきた。くすくす笑い声といっしょに。しあわせと同じ音程だ。
 気持ちいいねえ。
 気持ちいいねえ。
 エアリスの手は、やっぱり、すごく、ずっと、とびきり、やさしい。







ひとつひとつ、ひとつ
お題:こどものゆめ
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