ザックスは食べることが好きだと言って、その通り何でも至極うまそうに食べるのだが、彼に「うまいから! ほんと!」と連れて来られる店はどこも本当にうまいので、クラウドはいつもこっそり感心したり感動したりしている。今日も。
「……!」
 卵と絡んでじっとりした牛肉と玉ねぎと白米が、舌にぐっときて口のなかでぎゅっとなる。飲み下せば、のどを過ぎて胃袋に落ちてとける。しみる。ばっと広がってじわじわくる。
 確かにうまい。
 腹は減ってるけどでもそうじゃなくうまい。
 クラウドはザックスと食事に出るようになってもう何度目か知れない、ほとんど驚嘆に近いような気分で二口目にかかった。卵と牛肉と玉ねぎと白米とを口内に放り込んで、こんな単純な料理でも違うんだなあと感慨深い。出汁がとにかくじっとりしみるのだ。舌にのどに胃に。肉もやわらかいのにしっかり存在感がある。
「うまいだろ?」
 となりから訊いてくるザックスにもう一口、二口と味わいながらもとまらない箸をどんどん進めつつ、クラウドは無言で頷いた。よかった! とザックスは破顔して、自分の天丼に向き直る。
 五番街の、ネオンやら電光掲示板やらが騒がしい大通りからはちょっと隠れた場所にある店舗はあまり新しくなく、広くもない。黒々とした木のカウンターは清潔で、どんと威勢よく出されたどんぶりも使い込まれているだろうのが不快でなく温かだった。ザックスの行きつけだという店は既に幾つか教えてもらっていて、メニューや店構えはいろいろだがとびきりうまくて雰囲気がいいというのが共通点だった。静かで落ち着いた店もあればがやがやと話し声や笑い声ときには怒号が飛び交うようなところもあって、前者はともかく(でも、緊張はする)後者はクラウドにはなじまなくてでもなじまないなりに心地好かった。開けっ広げで懐が深いのはザックスに似ている。
 どちらの(たぶん、どんな)店にもするりとなじんでみせるザックスは、今日のこの店にもあっさりとなじんで自分の分の天丼を男らしくかきこんでいる。がさつだが下品にはならない指を横目で見やって、クラウドはううん、と声に出さずにこっそり唸った。







おいしいもの食べよう
20101017
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