本当のところ、エアリスはさして気の長いほうでもない。せっかちとまでは言わないが、すっきりはっきり、わかりやすい物事のほうが好ましく感じる。どうしようもないことやどうしたらいいのかわからないことはエアリスの毎日にもたくさんあるけれど、だからといってうじうじしているのは、何だか単純に性に合わないのだ。そのための神経が通っていないのかもしれない。エアリスにはエアリスにできることしかできないし、したいことしかしたくない。結局。……やあ開き直りだ、と自分でもちょっとおかしい。
 思わず笑ってしまったら、クラウドがええ? と訝しげな顔を向けてきた。となりで相談を受けているはずの女が話の脈絡に関係なく、いきなりくすくすやり出したんだから当然の反応だろう。と、いうか、ここで怒り出さないあたりクラウドは気が長い。エアリスは胸のあたたかいところからふつふつ零れる笑いをおさめようと闘いながら、一方では真面目に感心してしまった。すごい、すごい。
 クラウドは戸惑いとでもすこしの苛つきを交えてエアリスを、その底無しに青い両目でじいいっと見る。普段はシャイで俯きがちなクラウドだけれど、実はその視線はまっすぐだ。痛いくらいに純粋で純真。ひたむきという言葉に色と形を与えたら、この青い目玉になるんじゃないかと思う。
「それで、うーんと、けんか、したの? ザックスと」
 聞いてるのか、と言いたげなクラウドに聞いてるよ、と示しつつ続きを促すと、途端に眉尻がうっと下がった。こっちは素直の形だ。ぶちぶち、と一生懸命な手元で雑草が千切れる音がする。きちんと根っこから引き抜かないと意味がないのに。エアリスは抜いた草から絡まった土を解して落とした。
「……けんか、って言うか……」
 ぶちぶちぶちぶち。クラウドは屈み込んだ足元(手も同じところにある)に視線を戻して、適当に触れる緑を引き千切りながら(花には手を出さないくらいの気遣いは残っているらしいので、勘弁してやる)口の中でもごもご言う。エアリスはななめに並んで、丁寧に花を選って雑草だけを除いていく。これを怠けると花がきれいに咲かない。こういうのはわかりやすくていい。
「ザックスが、なんか」
「うん」
 今日のクラウドの話は長々と続いていて、そのくせぶつ切れで、いつもに輪をかけてちっとも要領を得ない。同じところをよたよた歩き回ったり、かと思えばひょいと一足飛びにしてみたり。一つのトピックについてここまでたっぷり時間をかけられるクラウドは間違いなく気が長い。神経が丈夫なんだろう。細そうだけど。
 ところで、エアリスは気の長いほうでもない。
「ほら。……はい」
 クラウドの手から緑の葉っぱがはらはら落ちる。子どもみたいにぬくぬくしたその手を取って、エアリスはハンカチで土と青くささを拭ってやった。ありがとう、とクラウドのお礼にはひねくれたところが何にもないので、エアリスもいいえ、と簡単に言える。どういたしまして。応えながらついついにこにこしてしまうのは、訳もなくと言えばそうだし、この青年そのものが訳だとも言える。足元に散った緑と同じだけのクラウドの無力さはいつもエアリスをまったく穏やかな、春の雪融け水にさせる。心臓にそっと花が咲いて、気まぐれな風にも素直に揺られる自分がわかる。そうしたらどれだけもごもごうじうじぐちぐちされたって、怒るなんて思いもよらない。
「すぐ、仲直りできるよ」
「うん……」
 クラウドはただ頷いた。







ひなげし
20101114
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