まぶたを下ろすとやって来るので、目は開けてずっと遠くを見ている。まるでままごとのように小ぢんまりと平和で穏やかな町の、家々の屋根が並ぶその向こう。だんだんと暮れていく空をこんなにじっくり見るのはそういえば久しぶりだ。
「なに、見てるの?」
 宿屋の廊下を歩いてくる気配には気づいていたけれど、声は掛けてこないんじゃないかと、なんとなく思っていたからクラウドは少し驚いた。心持ち目を見開いて見たエアリスは、そ知らぬ顔でクラウドの視線の先を探すように窓から頭を覗かせ、ひとわたり見渡してから振り向いた。
 緑の目がそろって瞬く。
「『べつに』?」
「……何でもない」
「ふーん」
「なに」
「『何でもない』」
 エアリスはクラウドのとなりに立って、ふふっと、唇の端に笑いを乗せた顔をまたカームの町へと向けた。まちにはそろそろと夜の腕が伸びてきて、道行くひとをそれぞれの家へと帰し始めている。ミッドガルにすぐ近いとは思えないくらいのんびりした町は、わけもなくほっとするようで同時に、黄昏のせいもあるだろうか、少しさみしい。故郷と似ているだとかそんなことは別にないけど。
 屋根の合間から射した斜陽にクラウドは目を細め、橙に照らされたエアリスの横顔を見た。薄い唇がゆっくり動く。
「ミッドガル以外の町、はじめて見た」
 まぶたの裏に揺れる幻に、沈んでいく陽が当たってあかい。あの日の過去が今でもそこで燃えている。







そして僕がみたこと
お題:落日
inserted by FC2 system