レノはときどきびっくりするくらい不幸だ。不幸というか不運というか。同じようなもんだろうと言ったのは例の女で、そのとき女は虫かなんかの薬かなんかを持ってなんかをしていて、声はその薬くらい平坦で潔癖で抑揚がなかった。つまりレノの発言とか不幸とか不運なんかは女にとってどうでもよかったわけだ。少なくとも花とか虫とか薬よりは低くにランクされていて、レノはちょっと傷付いた。別に慰めてほしかったわけじゃあないが。
 ……とにかくレノはそのとき規則的なんだか不規則なんだかわからない、その不幸だったり不運だったりの波に揺られてちょっとブルーというか憂鬱というか傷心というか、とにかくお疲れモードだった。だから成功の見込みのない任務なんかうっちゃって惰眠を貪りたかった。どうせきっちりやろうがだんらりやろうがこの仕事に光なんか見えやしないわけで、それなら眠って次の仕事のために体力を回復しておく方がよっぽど賢い。だからこれは惰眠ではなくて理由も意味も価値もある休養なのだ。必要な。レノは長椅子の上で寝返りを打った。背中いてえ。
「ばかねえ」
 女が言った。
 背骨はまっすぐレノを向いたままだ。声の調子と空気の揺れ方でそんなのは見なくてもわかった。
「…………」
 レノはそれから女が何か続けるかとも思ったが、空気はそのまま少しずつ元の位置に収まった。呼吸も。
 教会はいつものとおりしんとしていた。







なけもしない
お題:7
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