まったく子供みたいだなあ、とは思うけれど、気持ちがわかるかと言ったらこちらもまったくだ。わかるわけないじゃない、と思う。思ってエアリスは笑う。わかるわけないじゃない。
 ひざをゆるく抱えて、そこに頭をもたせかける。確かにエアリスには星の声が聴こえるけれど、ひとの、心の内の声なんて聴こえやしないんだから。だから生きていかれる。
 ほうほう、ほーうほーう、夜を飛ぶ鳥の声がする。ぱちぱち、薪の爆ぜる音もして、火花が瞳のなかを跳ねる。うるさくなって目を閉じた。
 こういうことも知らないんだろうか、と思って、そうしたらそれはよっぽどのばかだなあと思う。でも、結構それも否定できないんだからどうしようもない。
 たとえば、火にもいろいろあること。家の台所、野宿での焚き火、人を森を焼くのに、それからあのきれいでかわいい彼らの仲間が持っているやつ。
 ……エアリスはとなりに座る、ともすれば夜の底にずぶずぶ沈んでいきがちな青年を見た。太陽に愛された髪は夜にも愛されるべきもので、月にもきらきらしいけれど、今は焚き火の炎の方が近くで温かい。
 このひとも子供っぽいんだけどなあ。
 ちらちらしている睫の下の、瞳の色が深い。エアリスはその、どこか放り出された子供みたいな面差しからはちょっとばかり意外な、しっかりとした肩のところに頭を寄せた。どうした、とか無表情なくせおっかなびっくりな声が降る前に、なんでもないよ、と答えておく。心の内で。
「……どうしたんだ」
「ううん」
 裏切らないひとだなあ、と思って、エアリスはこっそり唇の端を持ち上げた。意識して、というより自然と。むずむず、でもないけどそういうかんじで。もっとゆっくりとおだやか。
 クラウドには子供みたいな、それこそ生まれたてみたいなところがあって、裏切らない。誰のことも。それはエアリスを安心させて、今みたいに微笑ませる性質ではあったけれど、それが全部なわけでも決してなかった。好ましいのは確かでも。
 ううん。もう一度呟いて、そうか、とかなんとか、クラウドが少し困ったまま頷くのを睫で聞く。
 子供みたいなのに。子供だったら。そうしたらこうはならなかっただろうかと思って、でも、そんなのわからないとしか言いようがない。だって子供でもしないような癇癪の起こし方だ。スラムの子供なんかよっぽど現実的で実際的なのに。柔軟でしたたか。だから、答えはいつだって一つしかない。エアリスにはわからない。
 まぶたの裏で夢を見ていると、本当に、ずるずるじわじわ、眠気が寄ってくる。それを敏感に察したのか、クラウドがおい、とか寝るなよ、とか言ってくる。寝るならテントに戻れ。エアリス。
 ああ、もう、どうしてこんなに。エアリスはまぶたの裏から、とろりと深い夜の底を見ていた。
 どうしてこんなに。







あしきともがらよ
お題:この娘うります
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