彼女はたいていの場合、ただそこにいるだけでいいのだというような顔をしてただそこにいた。古びて甘い空気のなかに座り込んで花を眺めているだけで。みどりの瞳を花と同じ色に和ませるだけで。
 その背骨はいつもきちんとツォンに向けられている。そう思っていた。しかし彼女はただそこにいただけかもしれない。ただ……
「ひとりでできることなんて、ほんとはないのかもしれない、って思わない?」
 彼女はいつだってやわらかでしなやかだ。ツォンは吸い込んだ空気にのどのところを押さえられてしまったみたいに戸惑った。
「だから、わたしにはなんにもできないのかもしれない……」
 わずかに伏せられた睫毛はそれでもツォンに向けられたまま。そっと空気を押さえる。ツォンは意識して息を吐いた。
「君は、そうだといいと思うのか」
「わたし、ほんとうになんにもできないもの。神羅の得になんてならないわよ」
 加えた一言にはいつものものに近い色があって、ツォンは少し呼吸を取り戻す。けれどどこかふさぐものが、ある、ような、……
「ひとり、とかは……君は、」
「あなたは、ひとりで、なにか、できると、思う?」
 すぐそこに、数えられはしない、けれどもう少し、いつもよりずっと近くにある睫毛が持ち上がる。長い。これはツォンをおびやかす距離だ。
 けれど距離のせいではない。
「俺は……」
 その瞳はかなしみの色ではない。







生きた孤独
お題:goz
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