実は寂しがり屋な自分、というものを御剣怜侍が発見し(てしまっ)たのは、わりと最近のことである。発見したというかさせられたというか。寂しがり屋というか何というか。二十代も半ばの社会的地位も責任もある大の男としてはなかなかに認めがたいところではあるが、すっぱり否定して鼻で笑い飛ばしてもしまえないのは、まあ、やはり、そういうことなのだろう。おそらくは。認めがたいが。認めたくはないが。
 …………
 いらっしゃい、とほがらかに笑って勧められたソファに掛けて、初めて出されたときには少なからず驚かされてしまった(いい意味で、である。それこそ失礼かもしれないが)お茶を飲んで。飲みながら、手土産の菓子を茶請けに世間話をする。当たり障りのない仕事の話や共通の知人、趣味について。相手が七つも年の離れた未成年でなければ、自他共に認める個人主義の御剣でもそれなりに(あくまでそれなりに)慣れた会話である。苦手ではあるが、相手が七つも年の離れた未成年、の、いわゆる『おんなのこ』でなければ、それなりに。
「わ、このチョコ、おいしーい!」
 御剣の手土産を二本の指でつまみ上げて、ぱくりと口内に放り込んだとたん目を丸くした『おんなのこ』が、こくんとのどを鳴らして言った。驚きと喜びが等分にまじった声で。表情も同じ配合でできている。
 『おんなのこ』はさらに一つ二つとつまんで放り込んで、んんんー、と陶然とした息を漏らしてから、
「さっすがみつるぎ検事のお土産だなあ……やっぱり外国の? ですか?」
「うム。知り合いが送ってきたのだが、口に合ったならよかった」
「ホント、おいしいです! ほらほらみつるぎ検事も」
「あ、ああ……」
 驚きがぬけて喜びでめいっぱいの笑顔で勧められて、御剣はややおされ気味に頷いた。おずおずと伸びる御剣の指の向かいから、2×10で並んだチョコを、細い指がひょいと軽やかな動きでまたさらっていく。
 『おんなのこ』――すなわち成歩堂法律事務所の自称副所長であり、霊媒師であり女子高生であり、御剣にとってはどうにも分類しにくいけれどもとにかく知人ではあるところの綾里真宵は、御剣が普段プライベートでは(仕事ではまた別だ。事実真宵と関わるようになったのも職務によってのことで、だからか彼女は御剣を職名をつけて呼ぶ)ほとんど接することのない年代であることを差し引いても引いても、引いても、とかく不可思議な少女で、その大半が首を傾げるまたは眉をひそめるもし許されるなら目を逸らして見なかったことにしたいようなものたちで構成されている。たとえば髪型とか服装とか、だ。似合ってはいるが。どころかそれ以外の格好をした真宵など想像もつかないくらいにぴったりと身にそったそのスタイルは、しかし、御剣が最も見なかったことにしたいものだった。
 霊媒師。
 そのひどく現実味を欠いた職業に対して、御剣は並々ならぬ、名状しがたい感情を抱いている。彼の過去と現在と未来のいかほどがそこに関せずにいられないことか。
「みつるぎけんひ?」
「いや……」
 真宵は本当に土産のチョコが気に入ったのだろう、何と言うか、何と言おうがふにゃんふにゃんだ。口内いっぱいに幸福そうだ。まったくそれ以外何にもないように。
 御剣はこの事務所に来るとあまり寂しくならない。







ギブギブミーアチョコレイト
20101017
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