ある日突然に唐突に、バカンス先でビーチに溢れる人々の健康的で開放的な肌の上にさんさんと降り注ぐ真夏の太陽に向かってぐんぐん伸びる大輪のひまわりのごとく輝くばかりの金色になった髪のことを、ジョルノはいまでは誰もが経験する思春期の自然な通過儀礼の一つであったかのように捉えているが、彼のあの厚い黒髪がやけに目につくときにはかけ離れたやちもないことを思いつきもした。それはいかにも幼く無邪気な夢想で、ジョルノはそんな自分にいつでも愉快な気持ちになれる。
 きちんと行儀よく椅子にかけて読書に勤しんでいるところでも、呼べば律儀に顔を上げてくれる彼が、向こう側をきっちり覆い隠してしまう髪を透かすのさえ待ちきれない。
「ねえブチャラティ。ブチャラティ」
「……何だ」
「質問です。僕以前は黒髪だったんです。知ってますか?」
「あ? ああ……」
 まだ途切れがちな彼の神経に対して、唇も舌も、いつも以上になめらかに動くのが自覚できてジョルノは薄笑みを浮かべてしまう。これは至って真面目な質問なのに。
「仮にいまでもそうだったら、もしかしてあなたと僕は兄弟のように見えたでしょうか。あるいは多少なりとも血の繋がりがあるように。どう思いますか?」
 ついつい早口でいきなりの問いをぶつけたジョルノに、明らかに面食らった様子を見せたブチャラティは、それでもまずはと答えをくれた。質問に質問で返してはいけません。ええ。
 くせのないのがいちばんのくせのような髪だなあとぼんやり思う。
「そんなことはないだろう。お前と俺は似ていないからな。……どうかしたか?」
「いえ」
 短く応えて、ジョルノは少し前にアバッキオが出ていったドアを見た。そうしていまでは、この部屋にはジョルノと彼の二人しかいない。だから静かだ。
「ちょっと思いついただけです。それよりお茶を淹れようかと思いますが、どうですか?」
「ああ、貰おう。悪いな」
「いえ……」
 それじゃあと言葉通りお茶を淹れようと立ち上がったジョルノを、一拍遅れてブチャラティの声が耳の後ろから追いかける。そうか。なんだ。あきれたように、はっと吐息で軽く笑われたのがわかってジョルノは振り返った。
 目が合った。
「ジョルノ、お前、暇なんだな」
「はい。とても」
 頷かずにまっすぐ答えたジョルノに、ブチャラティのほうはまるで兄のように、もしくは父のように頷いた。ジョルノはほんとうはほんとうにどちらも知らない。
「そうだ、ジョルノ」
 知らないが、写真は持っている血の繋がった実の父のその写真を、見せてくれと思いついたようにブチャラティが言うので久しぶりにポケットから出した。父である男は相変わらず鮮やかな金髪をしている。真夏の太陽よりも輝かしい。
「似てるな」
 やちもない。







過去に一つだけ嘘にしたいもの
お題:知絵莉
20091221
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