「おまえが」
 寝言かと思った。
 時刻は太陽もしっかり働き始めた昼前で、大きく取られた窓からはさんさんと爽やかな陽光が入り込み、常々清潔で気持ちの良い空間であるよう彼とそしてきっと彼の仲間たちもみな心掛けているはずの彼らの居間を、それは明るくくっきりと照らし出していて、ぴんと空気も眩しいくらいの、つまり寝言なんかが似合うようなシチュエーションではすこしもなかったのだが。それでもリゾットはそれを寝言だと思い、思いながらも一応そちらを窺った。
 室内に入るなりソファにからだを投げ出したプロシュートが、投げ出した体勢からどうにか顔だけを上向けている。よくできた曲線を作ってまぶたは閉ざされていた。
「おまえが死んだら、いや、いなくなったら」
 声は掠れていた。それがやはり寝とぼけているからかどうかリゾットにはわからない。男の仮定の二つの意味も。
「生きていけない」
 くあ、とプロシュートはあくびを挟んで、滲んだ涙を手で覆った。薄いまぶただけで遮るにはこの部屋は明るすぎるのだろう。
「と言ったらどうする?」
「……おそろしいな」
「だな」
 決まりきったジョークを交わしたときのように、そしてそれへのお定まりの愛想のようにプロシュートはのどでかすかに笑った。人体の急所の一つがしらじらと晒されている。まったく優雅で健やかな空間だ。
 眠るなら家へ帰ってにしろと言うと、徹夜での仕事明けの同僚はああとかふんとかくぐもった声で漏らして寝てないからと締めた。どちらの意味だとリゾットは眉をあげたが、ずっと目を閉じたままの男からはもちろん返事はなかった。







明日と恐怖
お題:氷上
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