学校帰りにオーソンで、偶然露伴と行き合った。ちょうど自動扉の真ん前でばったりとぶつかった二人は――よそ見していた康一と、よそ見していたから康一にはわからないけれどもやっぱりよそ見でもしていたのかもしれない、露伴も驚いたらしく、ぴたりとその場で静止する。「…………」「…………」開いた扉から人工の冷気が漏れ出てくる中で、まばたき三つ分ほどの間ものも言わずに見つめ合い、先に気がついたのは康一だった。
「こんにちは、露伴先生」
「ああ、やあ、康一くん」
 康一の少しばかりぎこちなくなった挨拶に、露伴は鷹揚に(見ようによれば、傲慢に)あごを引いて応えた。康一はそういうのにもなんだか慣れてしまって、最近では彼一流の愛嬌みたいにも思えてきた(と言ったら仗助は感心したような呆れたような、由花子とのことを告げたときにも少し似たかおをした)。
 冷えた空気が外気と混ざって、ふわふわと左半身をなでる。
「連載再開おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
 よく会いますね、と言う代わり、思いついてそう言うと、露伴はやっぱり鷹揚に(もしくは、尊大に)頷いた。「…………」
 カレンダーでの夏は過ぎても日差しはまだ濃い。舗装された歩道からむわりと立ちのぼる熱を含んだのと、開き続ける扉から零れるひやりとしたのとがせめぎ合ってへんな汗が出る。ここは立ち話をするのに向いてない。
「えーっと、入ります? よね?」
 鞄を持っているのとは反対の手で額を拭って促すと、露伴はん、とあごを肯定の意ではなく引いて視線をさ迷わせた。地面に落ちて、康一の肩を越えて、自身の背後を窺うようにしてそれから康一に戻る。子どものような、ある種の酷薄さを純粋に残したやや薄い黒目を、子どものような頼りなさでガラス扉にスライドさせて、露伴はみたび頷いた。「そうだな」――まるで迷子のようだ。あったはずの道がなくなって、行くか帰るか、どうしたらいいか戸惑ってでもいるような。
 そのままだな、と思って康一は頭をかいた。







未練は残るべくして残った
お題:けしからん
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