　エトウは悪い人間ではない。人を騙すのも騙されるのも嫌いだし、上手くないし、特別ばかでもないけれども……特別賢くもない。嘘を吐くのも得意じゃない。エトウは例えばあのフクナガとかいうキノコよりよっぽどまともな人間だから（髪型とか服の趣味とか髪型とか服の趣味とか）、あのゲームの一回戦に勝てたのなんかただのラッキーみたいなものだし、そのラッキーが運んできた二回戦といえば本当悪夢だった（から結局あれはラッキーでは全然なかったわけだ。ちくしょう）。
　エトウは悪い人間ではないけれど、良い人間でも……きっとないんだろうなあ、と思う。どちらかと言ったらもちろんそっちよりなのだろうけども（やっぱり騙すのも騙されるのも嫌いだし苦手だし、法律とかも、まあちいさいこまかいの以外はそんなに破ったこともないし）、でも騙されるより騙す方がいいし、損するよりさせる方がいいし、誰かのために何かを（例えばあのくそで最低で死んじまえなゲームから抜ける権利とか）なげうったりなんかぜったいできない。しない。自分を落とし入れようとした奴を助けてやろうだなんて思わない。今までそんなことしたこともないし、これからもきっとしない。だからそんな自分は良い人間にはほど遠いのだ。あのくそで最低で死んじまえなゲームでそれを知った。あああんなゲーム二度と戻りたくない。
「でもあのゲームがあったからエトウさんやみなさんと会えたんですよね……不思議ですねえ」
　なんて微笑んだりももちろんできない。
　ああ、うん、でも、そうかもしれない。

僕らは欺きの中で蘇生する
お題：貴方の唇