目を閉じたらまぶたの裏で星が散って、目を開いてもきらきらと星が光る。降るような、と形容されるだろう空が満天に広がって、ランカは何かを言いたくってでも何を言っていいかわからない、そんな気持ちでさっきから口をつぐんでいる。言葉を失うというのはこういうことだ。冷えた空気に鼻がいたい。太陽はとっくに足のあちら側で、ほんものの秋の夜。 「そんなに上ばっかり見て歩くと転ぶぞ」 落ち着いたトーンの声は秋によく似合う。ランカは肩越しにちらりと振り向いて、すぐそこにいるブレラに目の縁をゆるめた。くすぐったい気持ちが滲む。 「大丈夫だよ」 「気を付けろ」 「うん」 もう一人の兄にだったら、たぶん唇を尖らせてでもいるところだ。心配性なんだから! 口うるさいんだから! 素直に頷いたランカは前を向いて、懲りずに(でもすこしだけだ)頭を傾けて歩き出した。足の下には草があって大地があって太陽がある。頭の上には厚い大気と星と星と星と。瞬いて泣いているみたい。 ついこの間まであの中を旅してきたというのに、もうずっと遠いところ、遠いむかしのように思える。 「ブレラさん、お兄ちゃん……」 小高い丘のてっぺんで足を止めて、ブレラが追いつく一歩を待つ。となりを埋めるひとの横顔を思いながら、星の海から目が離せない。溺れている。肺から空気がこぼれた。 垂らしていた左の手をそっと包む温もりに、ランカは目を閉じた。まぶたに光があふれる。目を開けた。 「寒くないか、ランカ」 風邪をひく。 ランカは頭を振って、繋いだ手にほんのすこし力を込めた。 「大丈夫」 だからもうすこし。 星が流れた。 どうかこのままで。
光のループ
お題:にやり 20101009 |