サニーにとって、それは単に一つの真っ当な疑問だったのだろう、もちろん。子どもとは本当に純粋なものなのだと、オタコンは驚きとともに実感する。真っ当にぶつかってこられたスネークは、すこし見開いた目を歪めて顔をしかめた。間違ってとびきり甘いお菓子を噛んだみたいに。(自分にも、彼にも似ていたかもしれないしいなかったかもしれないが子ども時代なるものがあったということ、それこそが正に驚きに値する部分だ。とオタコンは思う)
「スネーク?」
 今度のサニーの声が幾分心配そうな色を孕んだのは、スネークのその表情が、見ようによれば痛みを堪えるものにも見えたからだろう。彼の顔面の半分を覆う、消えない火傷の痕がたまに引き攣れを起こすことを二人は知っている。
 そうじゃない、とスネークは軽く手を振ってサニーの杞憂を払い、たばこの煙をかき消すように、叶うならば質問も視線もいっしょに追いやってしまいたかったのだろうけれどそうはいかなかった。子どもというのは純粋で、真摯で、頑固だ。迷うことに迷いない。
 スネークは泣いたこと、ある?
 至極単純な問いかけだ。答えはどうしたってイエスかノーに限られる。
 そして、スネークの答えも簡潔だった。
「ある」
 言って頷き、スネークは中途半端なところに掲げていた手を、そうするしかなかったようにサニーの頭に下ろした。いろいろないろいろなものを掴み奪い取りこぼしてきたスネークの手のひらに、サニーの頭はいかにも小さい。サニーはまん丸で大きな目をぱちぱちと瞬かせながらスネークを見上げ、見上げられたスネークはやや頭を傾がせた。それだけで、まったく、なんて不器用な二人だとオタコンは思う。
 一口啜ったコーヒーはもう冷め始めていた。
 ところで、オタコンは先ほどから二人のやり取りをすこし離れた場所から見守っているばかりだ。







いたわれない手も取り合って
お題:エナメル
20110213
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