さてオセロットの目に映る限り、これといって変わった様子は見受けられない。フォークを握る手もナイフに添える指も健やかなもので、物慣れて品がいい。丁寧に切り分けた肉片をきっちりと口に運んで咀嚼する様は立派なものだ。女らしく、しかし、人形めいてなく。噛み砕かれ飲み下されたものが血肉になるのがありありと想像される……なるほどとオセロットは頷いた。
 グラスの中の液体で唇を潤してから、女はそっと首を傾げてみせた。
「何かしら」
 オセロットもナイフを置き、グラスを手に取り一拍挟んで答える。
「いや」
 女は手からグラスをゆっくりとテーブル上の定位置に戻す、その間、唇を涼やかに持ち上げてつぐませたまま待っていた。そうして瞬きだけでオセロットを促す。オセロットはいっしゅん、眉根を寄せて戻した。あまり愉快でない。
「食べ方だ。よく、食べる」
「そうかしら」
「悪い意味じゃない。どちらかと言えば、良い意味だ」
 不服そうな声を出した女はまたすぐに上品に唇を合わせ、ふうん、と鼻先で頷いてみせた。フォークを付け合わせの野菜に突き刺して口に入れる。やわらかく火が通りソースが絡まったアスパラガスが女の口中で小さく噛み千切られ、舌に運ばれするりとのどから胃へと落ちていく。
 オセロットも自身の前の皿に向き直った。厚みのある肉にナイフを入れると肉汁が滴った。
「ほめてくれてるのかしら? どちらかと言えば」
「そうでもない」
 これはただの単純な事実だ。どちらかと言えば。良い肉だ。
 女は300グラムのステーキをぺろりと平らげてみせた。
「栄養が必要なのよ」
 グラスからまたレモン水を飲んで、ナイフを放した手のひらを腹部に持っていく。オセロットからはテーブルに遮られて確認できないが、そこを撫で擦るのは腕や肩の動きから容易く推察された。視線を落として、いかにも、ほとんどわざとらしいくらいいとおしげな顔で。瞳にまつげが被さっている。聖母の像をなぞるようだ。
「三人分だもの」
「それが愛か」
 目を上げた女は愚問だというように微笑んだ。承知の上で、オセロットには永遠に答えられない。女と孕んだ女との違いがわからない。
「愛でなかったら何だっていうの?」







蔑むつもりでいました
お題:うぶ
20101105
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