ルフィの機嫌が好い、というのはいいことだ。――と言っても、ルフィは大体いつでも余計なくらい上機嫌で楽しげで、にかにかにやにやしししとはしゃぎまわってはトラブルを引き起こす(引き込む)男だし、もしかルフィが何か拗ねたり怒ったりしたところで船員たちがいちいちその機嫌を窺ったりするわけじゃあない。そんな気持ちの悪い関係はまっぴらごめんだと全員が、当のルフィがいちばんに思っているだろう。そうでなくて、けど、ただ、ルフィの機嫌が好いといい。それだけでクルーの気分もよくなって、サニー号全体の空気もすがすがしさを増す。これはもう単純にこういうもので、理由と言ったらルフィが船長だから、ということに尽きる。それだけ。
「ンンンンー」
 ぱさついた黒髪が風にさらさら揺れるのを、切りがないのに追いかけては連れ戻し、撫でつけ、また指から逃げられる。何度も、意味もなく繰り返す動きは脳の端にしっかり居場所を作って、わたしは何も考えずにルフィの髪を撫で続けている。たまに昨日書いた日誌の内容だとか、先週読んだ本の一文だとか、今日のお昼は何かしらだなんてことが海鳥の鳴き声といっしょにやってきては去っていく。ずいぶん長いことこうしている気もするが、雲の足行きもひどくのんびりだ。
「ンンーナミ、やらけえ……」
 下を向いていても、影が滑る速度が、歩くようで。閉ざされていたまぶたがうっすらと持ち上がっても、きらきら光るガラスは痛そうにしない。
「いーなーこれ……」
 高いわよ、と当たり前のことを一応教えてやると、ルフィはそうだろーなーきもちーもんなーとかふにゃふにゃ言ってまた目を閉じる。わたしはかまわれてない黒髪を梳いたり撫でたりするばかり。ゆるみっぱなしの口端がだらしなく持ち上がって、おいしい夢が近いんでしょう。
「よだれ垂らさないでよ」
 太ももに抱いた頭がさらさらと、音もなく夢の岸辺へさらわれていっても、わたしにははじめからすることもない。







きみが笑わなくっちゃ
お題:ララドール
20100102
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