女の勘、というやつだったのかもしれない。つまり。
 あの日クリーオウがまだ出会ったばかりのオーフェンに、当時の彼と言ったら結婚詐欺を働こうとしたうさんくさい魔術士だったはずなのに、学校を休学しておいしいご飯もふかふかのベッドもきれいなドレスも、家族も置いて着いていこうと決めたのは。たった数日でいろいろあってそのいろいろは大層衝撃的ではあったけれどクリーオウにとってオーフェンはまだまだ知らないところだらけで、なのに、それでも、ぜったいに一緒に行きたかった。行く、と自分でも制御できない部分が言っていた(それまでの彼女に自分が制御できたことがあったか、という話はいまはしない)。
 かつての若さを失ったいま振り返ると不思議にも思える。あの頃はすこしもそうは感じなかったし、いまとなっても、それはそれでやっぱりそんなものだったとも思うけれど。
 新世界へ旅立つ船のうえで、ただ彼を追ってきたのに、あんまりへとへとで結局殴ってやれなかったことを思い出す。一年ぶりで(共に旅をしていた期間より長く離れていたことになる)、会えるかもわからなくて、必死で飛び乗ったのに、彼は存外驚きもしなかった。拒否もなかったことに、正直なところ安心して泣きそうだったクリーオウの頭を撫でたオーフェンの手が、かんたんに彼らの空白を繋げてしまった。
 クリーオウにとって、オーフェンは……魔法使いなのだ。魔術ではなく。
 認められたくて、そばにいたくて、助けてほしくて、支えたい。あの日灯った想いが、いまも消えずこの胸にあることが何より誇らしい。








運命線上を行こう
お題:クロエ
20120425
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