不運委員、というのが保健委員の不名誉な別名で、不運な生徒ばかりが集まるのだと言われているそれを六年連続勤めているのが現委員長の善法寺伊作で、だからと言ったらだからだし、やっぱりそれだけでない、必要(というのがどれくらいなのだか乱太郎にはいまいち知れないけれども)以上に伊作は薬草や薬品に詳しい。そうして優しい。六年生のなかではめずらしく穏やかな気性の持ち主で、一番の下級である乱太郎たちでも親しみやすいひとだ。だから乱太郎はふと思いついた質問をすぐに口にできた。
「善法寺先輩、先輩はどうしてそんなにいろいろ詳しいんですか?」
 伊作は薬を整頓していた手を止めて、乱太郎を振り向き、ああ、とやっぱり穏やかに笑んだ。ふわりと新しく薬の香りがした。
「まあ、六年目だしね。けがをした人の手当てはその間ずっとわたしの仕事だった」
 みんなよくけがをするんだ。
 いたずらめいたものを込めて伊作は目を細め、乱太郎もすぐに彼の同級生の面々に思い至って頷いた。
「実習中でも、自主練習中でも、普段の何てことないときでもね」
「そうだったんですか」
「うん。やっぱり、心配だろう?」
「ええ」
 乱太郎は級友たちを思って、そうですね、と答えた。学年が上がれば実習も自主練習ももっと大変なものになるだろう。けがだってきっと大きくなる。自分たちはそれでもなくても、ちょっとばかり、注意力が足りてない。
 伊作は引き出しを閉めて、それから再度乱太郎を振り向いた。
「だから、乱太郎もきっと詳しくなる」
 薬のにおいがする。ここは保健室で、目の前の彼は保健委員長だ。乱太郎も保健委員だ。
 不運と言えばそうかもしれない、と乱太郎は苦く笑った。







この手は汚れていて、あたたかい
お題:lis
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