ここ数日好天が続いている。春らしい。それは今日も例外でなくて、ふわふわと温い空気はしんと静かで少しばかり重苦しい図書室にまで等しくやって来ていた。きり丸はカウンターにひじをついて、うとうと、半ば以上船を漕ぎ出している。
 ……あくびごと眠りの淵へ落ち込みそうになっていた、そのとき、きり丸はふと気配を感じて眼を上げた。眼球を六十度回すのにも大変な意志が要って、まだ後ろ足あたりはずぶずぶ沈み続けている。
「……な、中在家先輩!」
 眼前にいるのが誰かを理解したと同時に足はすっぽりと抜けた。きり丸は慌てて目をしばたたいて、丸くなっていた上体をぴんと起こす。
 無口で(不気味で)有名な先輩は、やはり唇は閉ざしたままできり丸の頭に手をやった。殴られる、と思ったわけでもないけれどぴんと伸ばした背骨が縮まりそうな思いでいたら、そのまま、ぽん、ぽんと叩かれた。やさしく。驚いて見上げたきり丸と、見下ろす長次の間にも、春の空気がふわふわ漂っている。
「……ええと、その……」
「…………」
「……ゼニもうけに役立ちそうな本とか、ありますか?」
 ぽん、ともう一度触れてそれから背を向けた長次が、少しの後に持ってきてくれた本を手渡すとき、唇の端に携えていたのは春の幻だっただろうか。いくら瞬きを繰り返しても時間は戻りやしなかった。







図書室の骨
お題:こどものゆめ
inserted by FC2 system