金吾は塹壕を掘っていた。
 いや、掘っているのはあくまで先頭を突き進む小平太であって金吾ではないのだけれど、その後ろを小平太が掘り返して飛んでくる土くれを避けたりぶつかったり顔面で受けとめたりしながら追っているわけで、まあ端から見れば金吾も掘っているように見えなくもないかもしれない。どっちでもいい。どうして塹壕内を走っている(確かに小平太は地面を掘りながら進んでいるはずなのに、確かに走っている)んだかの方が知りたい。
「な、ななま……!」
 走っているから息が切れて、下手に口を開けば土くれが飛び込んで、目の周りのを払おうとする手もすっかり茶色い。大きな背中は振り向くことを知らない。
 ――結局、学園中を掘り進んで進んでようやく小平太はとまった。金吾はじゃりじゃりする息だか唾だかを吐きながら、なおも楽しそうにくないをいじっているひとを見上げる。目が合ってもやっぱり小平太は笑顔だ。それもたぶん満面の。
「たのしかったな!」
「……な、ななまつ先輩、どうしていきなり、」
 そこで金吾はむせた。土臭い空気がのどをいっぱいにする。
 小平太は大丈夫か? とか言いながら顔を覗き込んできてそうして言った。
「たのしかったな!」
 太陽が眩しい。







愚問を食す
お題:みっけ
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