空耳だと思っていたのに、気付けば本降りになっていた。半助はぐったり倒れたからだを、起こす気にもなれないからそのまま、ぐったり倒して目だけを開けている。眠気だけがずっとやってこない。ガラスを叩く音とは別に、雨粒が地面に降り注ぐ音まで聞こえているから早いとこ窓を閉めなくてはいけない。そう思いながらやっぱり半助はぐったりしている。大儀だ。
 なんかもうやっぱり全部気のせいなんじゃないかとか考えて、ぼろくてじめじめしたアパートの一室でじめじめだらだら、いっそ眠りたい、でも眠れないのでじめじめだらだら。
「せーんせー」
 ぎいいん。とか耳障りな音ともにドアが開けられて、ぱたぱた足音は雨にまぎれて少し丸っこい。振動にゆすられるみたいにしてようやく半助は身を起こした。
「あ、先生何してるんすか。風邪引きますよ」
 訪問者は半助をちらと見て言って、あとは慣れた様子で台所(と言えるほどのものでもない)をいじっている。持ってきたらしいビニール袋をがさがささせる後姿に、半助はほとんど反射みたいにテーブルの上を片し始めた。物なんてないも同然だから、少しよけて拭いたらしまいだ。それでも図ったようなタイミングできり丸は振り向いて、小さな卓上に皿を並べた。今日の晩飯である。
「いただきます」
「いただきまーす」
 彼らの食事はいつも質素だ。個々人でもそうだし、こうして卓を共にしても、さして内容が豪華になるわけでもない。その上ほとんどが貰い物だったりして、きり丸がそれぞれの来歴を語るのを聞きながら大根の漬物をかじる。
「それにしても先生どうしちゃったんですか」
「ああ、いや、ちょっと疲れてたんだ」
「ふーん」
 そっけなく頷いて、きり丸はさっさと食事に戻る。戻る、というより本体はあくまで食事なので、質問の方がついでだったわけだけれど。それにしてもめずらしい。きり丸は気分屋だし必要ないものは必要ない、関係ないものは関係ない、といったタイプでもあるけれど、好奇心はそれなりに旺盛なのだ。年相応に。
 何かあったんだろうか。
 短い食事を終えて、後始末は半助の役割なのでまたテーブルの上を片していたら、脇に転がったきり丸が言った。ため息とともに。
「猫でも飼ったらどうっすか」
 寂しいんなら。
 半助は首を捻った。







きっと羊の数だけ寂しくなるね
お題:Whimsy
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