それはいっそ電撃的な何かでした、とは言えないのかもしれない。それが希里の頭(いや髪の毛の本当に一本いっぽん)の先から足の指の爪の白い縁まで残さず通って貫いたのは確かだけれど、けれども。それは一瞬で雷に撃たれるような簡単なものじゃなく、もっとじわじわと緩やかに、密やかに、深く確かに希里の細胞一つひとつに染み込んでいくのだ。
 昨日も今日も、きっと明日も、もちろんいまこのときも。
 この身はあなたの為に、と誓った言葉は欠片一つだって嘘じゃない。希里自身にもどうしようもないほどに、それは一秒毎に切実さを増す真実だ。正しく闇のなか孤独だった希里に差しのべられたそれは瞬き一度の稲光ではなくて、ずっと長く、冷えきった指先から心臓まで温めてくれるものだった。
 これからもそうなのだと、信じることが希里にとってのいまなのだ……
 どうしたら、あなたはわかってくれるのだろう?

「うん? どうした?」
 何かが耳にでもついたのか、不意に顔だけで振り向いて、椿は身長差の関係から希里を見上げて言う。冬の木漏れ日にくせのある黒髪が淡く照らされて、天然の茶色めいても見える。黄色人種の健康そうな肌の色は、これも冬の太陽のせいか、やや白っぽく、しかし頬はきちんと血の巡っている証拠にほんのりとあかい。唇もやわらかげな色をして、ちらりと覗いた舌もあかかった。
 椿の瞳は不思議な金色だ。色素が薄いのかもしれない。
「会長」
 何だ、と椿は今度はからだごと希里に向き直る。他の誰も持っていないその色に見据えられると、希里は彼の従者でしかいられない。絶対的に忠実な。
「何か命令して下さい」
 おれはあなたに従いたい。
 この鮮やかに色付いて輝きながらぐるぐると回るこの世界で、どこまでも。
「キリ……?」
 椿は戸惑うように、困るように希里の名を呟いた。二音きりをかたちづくった吐息が白く濁って、いまはそれさえ二人の間できらきらと見える。







鮮やかに色付いた世界は輝きながらぐるぐると君を中心に回り始めた!
お題:彗星03号は落下した
20110921
inserted by FC2 system