ばったばった白い布がはためいているので、ああ今日は風が強いなあと思った。威勢のいい白衣のすそは膨らんでは潰れて土方の視界を半端に塞ぐ。多分こんなふうにあの白が泳ぐのを見たことはなかった。 細い棒っ切れみたいな脚が伸びている。わりにきれいな上靴(けれど土方のより擦りきれている)に収まった足が屋上を踏んでいる。上靴の底とゴム同士のくっつくみたいなあの感覚はここに特有のものかもしれない。 土方は屋上と校内を繋ぐ階段の脇に立って風を避けながら、決してあの軽薄な白い布みたいには浮き上がらない青色を見た。少し重ための色をして、その通りにきちんとあるべき場所に留まっている。つまりその細すぎる脚のまわりに。プリーツは清潔な香りをまとって見える。聖域とかふざけた台詞を吐いた奴は今はここにはいない。重みなんてかけらもないような声を思い出して土方はげんなりした。 「何してるアル」 「そりゃてめーだろ」 「風を感じてるに決まってるネ」 「そいつぁ」 突っ立ったっきりだった脚が動いた。くっついてでもいるみたいだった靴底は簡単に浮いて、ふらりと歩き出す。言葉の通り風に向かって。白衣のすそは怠惰に着いていく。 「銀ちゃんはいないネ」 「総悟もいねえな」 広いとも狭いとも言えない屋上をあてもなくただふらつく足は小さい。女というより少女という言葉の似合う。 ぐるりと囲む柵の向こうは一目散に落ちる壁なのでここからはどこへも行けない。響きは開放的に思えるのに。風は強い。 「何か用か」 「別に」 「おまえは」 「別に」 知ってる。 呟かれた声は聞き違いだったかもしれないし、強い風に耳が惑わされたのかも、あるいは土方の頭のなかにだけ存在したのかもしれなかった。
空とべ
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