どうにも爪先が冷えるので、とうとう耐えきれなくなってこたつに両足を突っ込むと、正面の辺でみかんを剥いていた女があらあらと声と顔をあげた。あわせてみかん剥きを中断する念の入りように、折り畳んだ両足に早く温もれと念を送りながら、わざとらしい、と言えない彼は女の倍くらいのわざとらしさ(こういうのはたいがいあとになった方が分が悪い)で聞こえないふりをする。寒いさむいと身を縮こめるふりをしてはいても、こんな小さなこたつではやっぱり卓の上に置かれている手を見ないわけにはいかず、べつに見たくもないのだけど見えるのは、よくよく手入れのされた手である。見るからにすべすべとしていて、木枯らしもいい加減吹き止もうという季節でも、あかぎれなんてちいとも知らない。それが女らしいのかどうだかは彼にはわからない。けれど、みかんの白い筋を一本いっぽんまで丁寧にはぐっていくのには向いているだろう。女の手のなかの、半端に剥かれたみかんは、彼から見て、ちょうど左半分だけがみずみずしいはだかをさらしている。甘そうだ。彼はこたつのなかで両足を擦り合わせながら、落ちつかない舌を口内であっちへやり、こっちへやり、疲れきって動かなくなるまでそうしていよ?かともはやあきらめの境地に近い。







ごめんなさいが言えない
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