今朝から、いや昨晩から、あるいはさらに幾日も前から降り続く長雨はほんとうに長いことになっていて、さてその始まりが正しくはいつだったのか、確かなことがわからなくなる。とにかく随分と長く、と思える間縁側の外を濡らし続けている天気にどうにも出掛けるのも億劫になる。この間外に出たのは何日だったか……仕事を休んだ記憶もないけれど……
 ぼんやりと思いを巡らす妙のとなりでは、となりと言うにはすこし遠いかもしれない、歯痒い距離で男がひとりあぐらをかいている。日々の定まった仕事のない自由な(甲斐性のない)身、この男こそ出掛けていないのではないかしらん、と思われるもさすがにそんなことはないだろう。彼の家はここではない。
 長引く雨に、どこからか湿ったからだが小さく震えている気がする。
「冷えません?」
「んー」
 覚束ない返答一つで、組んだ脚の腿のうえに乗せた愛刀を男の指が静かに滑る。もうどれくらいそうしているのだろうと、妙はほとほと呆れてしまいたい。
 鋭くも鈍くも光らない木刀は、この湿気に膨れてやわらかくでもならないだろうか。それでもなまくらであったことなどないだろう、男の手の中で、いつまでも無言を貫いたまま。
(斬って済むなら)
 そうしたらやすいのかしらと、妙は胸のうちでひとりごちる。







斬って済むなら
お題:たかい
20111026
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