魔界の海はまさしく魔の海そのものだった。どろりと暗く澱み底が果たして存在しているものかもわからない。空も完全に塞ぎきっていて、何も知らぬ人びとが生活する大地の下は教典の中の地獄より地獄らしかった。何しろこちらは事実いまここにある。現実感はまるでないが。 崩落に巻き込まれた人たちの血や苦しみや恨みが魔界の空気と混じり合って呼吸をふさぐ。ガンガンと割れそうに痛む頭が、ある一点に集中して騒いでいる。ガイは苦しかった。 「ルーク……」 こんなことになる前におまえを殺しておくべきだったのか? それともいまこそがそのときなのか? 全身の血液が沸騰してすさまじい勢いで巡るのにいまにも凍りついてしまいそうだ。なのに、それでも彼が口にするのはあの子どもの名前だ。 「ルーク、ルーク……!」 ガイは何度もあの子どもを呼ぶ。祈るように。救いを求めるように。
絶望の海よ耳鳴りよ轟きよ
お題:晩餐 |