いつまでもふらふらと地に足の着かない、と言うにも大概限度があるなと葉でさえ思うのだから、まったく真木の心労はいかばかりか計り知れない。気まぐれの尻拭いにしか思えない留守預かりとして抱え込んでいるあれやこれや、詳細なんか考えたくもないので考えないことにしているけれども。いくら何でもこの歳で胃痛を患いたくはない(真木が患っているのかは知らない)。
「こら。肺が真っ黒になるぞ」
「あ、何すんだよ」
 指の間から煙草がふっと、文字通りかき消えて、かと思うと葉よりか一回り細い指の間に瞬時に現れた。火はついたままで偉そうに組まれた腕の先、学生服から覗く手の先にちょんとある。
 葉が腕を伸ばすと相手の腕も伸びて上がる。
「返してよ」
「だめだね」
 しろい手がくいと煙草を握り込み、次に開いたときには跡形もなくすっきり、きれいさっぱり消えていた。手のひらには灰のひとかけもない。今度はどこにも現れない。
「何すんの……」
 ずるずると落ちそうになるからだをフェンスに引っ掛けた腕でとどめつつ吐けば、ふらふらと外側に浮いている(つまり事実地に足が着いてない)兵部はそっけないくらいの声音でだってまだ子どもじゃないかと言った。葉はむっとする。
「そりゃああんたよりはかなり若いけどなこのジジイいてっ」
 すぱかん! と齢八十とは思えない反応速度で殴られて(普通に痛い)、葉はいよいよ不満をつのらせて唇を尖らせた。兵部はいつだって好き放題ばっかりしているくせに、こんなの不公平だ。真木や紅葉や、葉の言うことなんて結局ちっとも聞きやしない。
 今や葉より年若い指が一本、口の先に伸びてくる。
「とにかく煙草はだめだ。ルールは僕が決める……聞けるな?」
「…………」
 葉は視線を落とした。
 ぽんぽん、と小さな子どもにでもするように、兵部の外見年齢くらいでいい加減ぎりぎりだろうやり方で手のひらが頭に触れる。兵部の表情は見えない。
「ジジイ……」
 不公平だ。







そんな顔してもだめ
お題:たかい
20101017
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